ロシアンカーフ ヴォリンカについて
ロシアンカーフは、およそ200年前に沈没した船の積荷として発見された、極めて稀少な革です。
現在では、当時の製法を伝える工場や製造レシピは現存しておらず、真正なロシアンカーフは引き揚げ品としてのみ確認される、いわば“幻の革”です。市場に出回ることは極めて稀で、博物館級の希少価値を持つ素材といえるでしょう。
この幻のロシアンカーフを現代に甦らせるべく、フランスの名門メゾンと英国の老舗タンナー・ベイカー社が、長年にわたり共同研究を重ねました。その成果として誕生したのが、ロシアンカーフ ヴォリンカです。
表情について
表面には、オリジナルのロシアンカーフを象徴する繊細な菱形の凹凸模様が忠実に再現されています。この独特のパターンは、ミネルバボックスやドイツシュリンクといった他のシュリンクレザーとは一線を画す、ロシアンカーフ特有の意匠です。
表面に白く現れる部分は「ブルーム」と呼ばれるもので、革に含まれるワックス成分が自然に浮き出たものです。使用に伴い、摩擦などで徐々に薄れていきますが、気になる場合はブラシ等で軽く磨くことで落とすことも可能です。
なお、usflではこのブルームもロシアンカーフの魅力の一つと捉えており、意図的にブルームを残すよう配慮して制作しています。
色の濃淡とブルームの表情が相まって、圧倒的な存在感と奥行きを感じさせる素材です。部位ごとに色味やブルームの出方に個体差があり、さらに菱形のパターンにも微妙な変化が見られます。ひとつとして同じものがなく、まさに一期一会の素材です。
私自身、裁断の際には「ここを使えば良い作品になる」と直感することがあります。濃淡や模様を見極めながら裁断していく時間は、ものづくりの中でも特に心躍る瞬間です。ロシアンカーフ ヴォリンカは、創作意欲をかき立てる特別な革だと感じています。
高級メゾンで採用される革は、クロコダイルなど一部の例外を除き、「どの部位を裁断しても均一な表情を保てる」ことが求められます。濃淡のある革や、個体差の強いワイルドな革が使われることは、ほとんどありません。
それだけに、ヴォリンカがフランスのトップメゾンに採用されたという事実には、並々ならぬ特別さを感じずにはいられません。
革本来の表情を活かす染料仕上げのため、生きていた頃のキズやかさぶた、シミといった痕跡が残ることがあります。これは天然素材ならではの個性であり、こうした表情もロシアンカーフ ヴォリンカの魅力の一部と捉えています。
なお、usflでは製作にあたり、目立ちすぎる箇所は避けつつも、機能に支障のない部分については使用しています。
香りについて
非常にスモーキーな香りです。ベイカー社は古来からのオークバーク鞣しを採用するイギリス唯一のタンナーであり、ヴォリンカではオーク樹皮や白樺樹皮によるスモーキーな香りもお楽しみいただけます(ベイカー社のブライドルレザーに似ていますが、さらにスモーキーでウッディ)。特徴的な香りではございますが、ご使用に伴い落ち着いてきます。
エイジングについて
なお、miniのようにフラップの内側など、摩擦の少ない部位には、ブルームがわずかに残ることがあります。使用箇所や頻度によって、エイジングの進行にも違いが生まれるのも、この革ならではの魅力です。
表面には自然なツヤが現れ、革の風合いに深みが増していきます。格子状の菱形パターンに光が当たることで、見る角度によって陰影が変化し、なんとも言えない美しい表情を楽しめるのも、ロシアンカーフならではの魅力です。
タンニンなめし、かつ染料仕上げの革であるため、使用にともなって色味が深まり、豊かなエイジングをお楽しみいただけます。
表面にシミや色ムラが見られる個体もございますが、使い込むほどに全体が濃く変化し、それらも次第に馴染んでいきます。革とともに時を重ねることで、唯一無二の風合いが育っていきます。